忍者ブログ
カテゴリー
プロフィール
HN:
薫令(かおれ)
年齢:
37
性別:
女性
誕生日:
1987/02/23
職業:
大学生
趣味:
手芸・工芸・文芸
自己紹介:
ドール大好きっ子の薫令です。
手芸も写真も好きなので、
outfitを作ったり、
いろんな場所で写真を撮ったり。
そんな活動の記録です。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


今回は、小説です。
リコリス(珠華)と
その人形(狐花)のお話。

リコリスという名前は「彼岸花」からもらいました。

珠華というのも同じく。
彼岸花の別名「曼珠沙華」からです。

狐花も、実は彼岸花の別名なんです。
平安時代あたりの呼び方で「狐の花」というものがあります。
あと「壱師花」というのもそうですね。
…彼岸花の精霊・壱師@ブラウニも、
この名前からきているんですよ。

では「つづき」からどうぞ。





++++++++++

【狐の花】

ここは…どこ?
箱に入れられたまま、ガタゴト動かされて、
だいぶ遠くへ来たみたいだけど。
もうこの体も限界ね。
腕も手も足も、髪も
もうボロボロ。
それも仕方のないことよね。
私の体が作られたのは、千年以上前のこと。
魂だけこの人形に移され、
それからは妖力を使って、
体を維持してきたのだもの。
もう力も残ってないの。
このまま、箱の中で死んでいくんだわ。
せめて、もう一度
あの咲き誇る赤い花を見たかった…。

+++

はぁ…。
今日も朝がきた。
学校、行きたくないなぁ。
行ったって、どうせイヤガラセをさせられるだけだ。
祖父が中国人っていうだけで。
父が華僑の顔役だっていうだけで。
僕は関係ないじゃないかっ!
…って言ってられないか。
とりあえず行かないと。
母さんが心配する。

「いってきます」

いつもの通学路。
代わり映えのしない…あれ、こんなところに神社なんてあったか?
寄ってみようかな、なんて気がよぎる。
どうせ遅刻しようが休もうが、だれも気にはしない。
だったら、少しだけ……。

+++

―っ。なにこれ。

神社に入ったとたんに、僕は引き返したくなった。
そこでは今を盛りと、大量の曼珠沙華が咲き誇っていた。
でも、なんでこんな時期に、こんなに大量に
曼珠沙華が咲いてるんだよっ。
自分の名前の由来とはいえ、いい気はしない。
それは『彼岸花』の異名をもつからだ。
そのせいで、秋になると必ず詰られる。
学校じゃなくて、墓地にでも行っていろ―と。
でも……こんなに真紅の花は見たことがない。
ん? 今何か…花の中に何かが見えた気がする。
そちらへ行くと、花に埋もれて、桐の小箱が出てきた。

「よ…っと」

手に取ると意外と重い。
何が入ってるんだろう。
陶器とか?
いいものだったら、父さん、褒めてくれるかな?

かたっ

人形…で、いいんだよね、コレ。

中には原型をかろうじて保っている程度の人形が入っていた。
花の中に埋もれてということは、奉納されたわけじゃないよね。
どうしよう…。
思わぬ拾い物の対処に戸惑っていると、
一筋の光が射した。
……あ、赤い瞳。綺麗。
こんなに綺麗な瞳をしているのに、
捨てられたのは何故?
もっと瞳を見たくて、人形を抱き上げると、
背中に何か描いてあった。

えっと…、うーん、曼珠沙華?
だからあの花の中に捨てられてたとか?
不吉…だもんね。

「いっしょに来るかい?」

思わず口にした言葉に、人形が微笑んだのは気のせいかな。
まぁいっか。
僕は通学路を引き返し、
人形に詳しそうな人のところへと向かった。

+++

「―ってかんじで見つけたんです」

ここはタオ老師の家。
僕が唯一落ち着ける場所だ。
老師は父の恩師でもあるので、
僕が入り浸っても、文句は言えないみたいだった。
老師に一通り、見つけた経緯を話した。
その間、老師は人形をくまなく見分していた。
―と、背中の模様のところで手が止まる。

「それ、なんの模様ですかね」

僕は曼珠沙華に見えたのだが、
老師に訪ねてみた。

「この人形が曼珠沙華の中にあったのなら、
曼珠沙華だろうなぁ」

どういう意味だろう。
前の持ち主も、背中の模様を曼珠沙華だと思った
ということだろうか。
老師を仰ぎ見ると、軽く首を振り言った。

「この人形には何か憑いておる」

あまりこの手の話は信じない僕だけど、
華僑の人間は好きなんだよね。
あと、日本人も幽霊が好きみたいだけど。

「この体が朽ちれば、憑き物も息絶えるだろう。
最後におまえに会ったのは、縁なのかもしれないな」

「どういう、意味ですか?」

「おまえの名と、その花を、よく考えてみるといい」

そう言うと、タオ老師は手を振った。
こうなると、もうここへはいられない。
自分の家へ帰って、老師の問いを考えることにした。

+++

自分の名―。
それは曼珠沙華からとったと聞いている。
迷惑な話だけど。
それはこの際、置いといて、曼珠沙華。
この花にはすっごくたくさんの異名がある。
一番有名なのが『彼岸花』かな。
墓地によく咲くから『彼岸』つまり黄泉の花という意味だ。
あとは、『死人花』『地獄花』それから『狐花』。
覚えているのは最後のヤツ。
きつねのはな。
夕方に彼岸花を手折ると、
その晩、狐が化かしに来る―という話。
狐?
そういえば日本の怪談でも、よく狐憑きの話がでてくる。
クラスメイトが話しているのを聞いて、
調べてみたことがあった。
もしかして、憑いているのは狐?
彼岸花を手折られたヤツのところに化かしにいって、
封じられちゃったの?

「手折った人間が悪いのに…」

ガタっ

おそるおそる小箱に目を向けると、人形が倒れていた。
振動を与えたわけではないのに…。
彼岸花を愛でる狐ならば、
最後に彼岸花の異名をもつ僕に出会ったのは、
確かに縁なのかもしれない。

最後に?

『体が朽ちれば、憑き物も息絶える』のならば、
体が朽ちなければいいのでは?
僕が新しい体を与えてあげられたら、
この狐はまだ生きられるかもしれない。

+++

僕は必死になって人形の体になるものを探した。
どんなものがいいのかわからなかったから、
印象的な赤い瞳をそのまま使える物にした。
瞳には気持ちが宿るという。
気持ちが宿るなら、魂だって宿ってもおかしくない。
そうして新しい人形を手元に置き、
顔を描き、髪を切り、元の人形に近付けていく。
もちろん、背中の曼珠沙華も描いた。
そうして、新たな体ができてから、
僕はもう一度、タオ老師のところへ向かった。

+++

タオ老師は少し驚いたようだった。
僕がこんなにも執着をみせたのは、
幼い頃以来だったから。
老師は、魂を瞳に集め、
僕が用意した新しい人形へ移した。
古い人形は、神社へと奉納してくれるそうだ。

「これで憑いていた者も、生きながらえますね」

「まだ安心してはならぬ。
名を与えよ。
それが人形の主として、
そして、印の要として働くことになる」

名前―。それなら、もうとっくに決めてある。

「狐の花と書いて、狐花(きっか)。
そのままだけど、気に入ってくれるかな?」

+++

声が聞こえた。
黄泉路の途中を引き返すように求める声が。
「狐花(きっか)」
私の…名前?
私は、まだ現世にいてもいいの?

光を取り戻した時、
男の子の顔があった。
貴方は誰?

「僕は珠華(しゅか)。君のご主人さまだよ」




拍手

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
Copyright c 小夜曲。。All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog / Material By 御伽草子 / Template by カキゴオリ☆
忍者ブログ [PR]