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手芸も写真も好きなので、
outfitを作ったり、
いろんな場所で写真を撮ったり。
そんな活動の記録です。
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前回の第8回あたりから、
アイリスの心境が変化していきますね。
小夜子を見る目が変わったというか…。
そのあたりが、
呼び方にもあらわれていると思います。
今後どうなるのか。
アイリスはどうするのか。
お楽しみください。
【Boy meets girl... 第8回】
できあがったCD―っても試作版だけど、
ちゃんとジャケットのついたCDを渡すために、
俺は小夜の事務所へ会いに行った。
今日行くことは伝えてあるし、断りの連絡がないということは、
会えるのだろう。
こういう礼儀や常識にはうるさいみたいだし。
1Fのラウンジに待ち時間より早めに来た。
お気に入りのMP3を聴いて時間をつぶす。
そこに息を切らせて走ってくる少女がいた。
彼女だ。
「ごめんなさい、遅くなってしまって」
そう言われて時計を見たが、まだ5分前だった。
「時間より早いじゃん」
俺がそう言うと、小夜は首を振る。
「それでも、待たせてしまったから…」
『待たせてあたりまえって女が多いのに、めずらしいなぁ』
やっぱり小夜はどこか違った。
「これ、こないだのCD。どう?」
ジャケットを見た小夜は笑顔になった。
「この写真、使ってくださったんですね」
この写真とは、見返り美人のように振り返る小夜子の遠景と
身体半分で振り返る俺の近景。
お互い遠ざかっていくなか、
「アイリス」と呼ばれたから振り返っただけのものだった。
しかし、ジャケットにすると、互いが視線を絡めているように見える。
どっちも顔なんて写っていないのに…。
こういう写真になるってわかっていたのか?
すげぇじゃん。
俺も初めて見たときにはびっくりしたよ。
リーダーなんか、めずらしく絶賛してた。
…そういえば、ジャケ写のときは積極的だったよな。
もしかしてリードしてくれてた…とか?
さすがモデル―と言いたいところだけど、男としてはなぁ…。
「すごくいいと思います。ありがとうございました」
そう言ってCDを渡してくる。
このCDは小夜にあげるためにもってきたんだ。
「やるよ。ってもロックなんか聴かねぇんだっけ」
「いえ、この曲は好きですから…」
はにかむ小夜を見て、俺は小夜をもっと知りたくなった。
「ねぇ、普段はどんな曲聴いてんの?」
「クラシックとか、オペラとか。ジャズも好きです」
うーん、俺とみごとにかぶらねぇ。
まぁそうだろうな。
俺だってロックのほかにはポップスしか聴かねぇし。
「あの…、どんな曲聴いてらしたんですか?」
どんな曲?
あぁ、MP3のことか。
「洋楽だよ。向こうの曲もおもしろいし」
「洋楽…」
小夜はそれだけ言うと黙ってしまった。
何考えてるんだろうなぁ…。
聴いたことないんだったら、聴かせてみるか?
「聴く?」
俺はMP3を操作して、イヤホンを片方掲げた。
彼女は控えめに受け取りイヤホンをする。
俺ももう片方のイヤホンをした。
とりあえず、あんまり個性的じゃないのからいくか。
曲をながして、様子を見た。
―と、思ったより近い距離に顔があるのに驚く。
視線に気づいたのか、にこっと笑うもんだから余計にドキドキする。
『お、おどろいたからドキドキしてるだけだよなっ』
半ば言い聞かせるように、内心つぶやいた。
そうこうしているあいだに、曲が終わったのか、
小夜がイヤホンを差し出してもとの位置に戻った。
ホッとするような、すこし寂しいような…、フクザツな気持ちだ。
「洋楽もおもしろいですね」
………あんまり笑うな。変なこと考えちまうだろうが。
表情にでていたのか、不安げに覗き込まれた。
なんでもないというように、話題を曲に戻す。
「MP3でよかったら、ほかにもあるからあげるよ」
「……ありがとうございます。また今度」
少し顔を伏せて、遠回しに遠慮してきた。
曲が嫌いってわけじゃないよな。
好き嫌いはハッキリ言うタイプだし、
…ん? この表情、前にも見たことがある気がする。
悲しげな…あぁ、あのときか。
小夜の誠意は伝わりにくい。
だから人間関係がうまくいってないだろうと指摘したときだ。
あのときも、こんな風に笑ってたっけ。
「MP3じゃ困る?」
彼女の悲しそうな笑みが気になって、質問してみる。
「あの……ごめんなさい。私、持っていないの」
は? 持ってないってウォークマンを?
今時の高校生にしてはめずらしい。
音楽、好きそうなのに。
「親とかに買ってもらえないの?」
「……そうね」
あれ? 今、表情が凍りついたような気がする。
地雷ふんじゃった?
このままなかったことにするのがいいんだろうけど…。
「親とうまくいってないとか?」
「いいえ。父も母も好きよ。……でも、もういないの」
やべぇ。最悪…。聞いちゃイケナイことってやつ?
でもそうするとひとりなのか…。
いや、前に家族がいるっていってなかったか?
確か大学受験の話をしてたときに。
ということは兄弟? 親戚か?
「でも家族はいるんだろ。前にそう言ってたじゃん」
彼女は少し驚いて答えた。
「覚えていたんですね…。
幼稚園の妹がひとり。私の家族はそれだけです」
前は家族のために働いて勉強していると言っていた。
家族―つまり妹のために、
自分のほしいものも我慢してるのか?
「だったら、俺が買ってやるよ。プレゼントってことで」
めったにこんなことは言わないんだけどな。
たまには『がんばっているおねぇちゃん』にご褒美あげたっていいだろ。
「そんな…いただけません」
予想に反して、小夜は断ってきた。
「私たちを憐れんでいるのでしたら、結構です」
言うなり立ち上がって帰ってしまった。
憐れむつもりなんてなかった。
ただ、小夜の喜ぶ顔が見たかっただけだったのに。
俺はそのままフロアをのぼって小夜のマネージャーを探し、
携帯をムリヤリ聞き出した。
ついでに誕生日も。
誕生日ならプレゼントもおかしくないし、我ながら名案だと思ったんだけど
残念なことに彼女の誕生日は12月だった。
まだ3ヶ月以上先だ。
づづく…